リー フリードランダー ―Mirror to Window―

works from ‘Stems and Self portraits’
2010年3月31日~6月25日


カメラ人間[Camera-Man]とも言うべきリー フリードランダーが膝の病魔にかかりながら撮った「Stems」シリーズ。他にも数多く名作を残す彼だが、ここに「Self Portrait」シリーズと共に注視したい。
軽快でウィットにとんだ彼は、その最中の撮影に関して「昼飯を食うようだ」と言ったそうだが、笑みの向こうには彼の真摯に写真に向き合う姿が浮かぶ。病の中で見た花瓶の中の宇宙。植物と空気と水と光。ガラスは人工物として光を曲げる。そこに立つ彼は何を見たのか。その気泡に何を感じたか。病の中に光は何を写し出したのか。彼は初期から自写像の作品を発表してきた。カメラと言う機械は誠に禅の警策の様だ。我を知り、我在るが故に無に至る。自写像の写真は果たして彼なのか。これら二つの作品群は彼の写体・被写体の若しくは生と死の両極同一を成しているように思う。果たして写真は己の存在を語ってくれるのだろうか。それは、彼の存在では無く我々の存在であり、ある他の自己で無く我自己を見るのかもしれない。彼に似つかわない言い方だが、虚像と実像の狭間の歯がゆさの中にこれ程無邪気に写欲に取り憑かれた人はそう無いであろう。しかしその向こうには彼岸がある事は間違いない。彼は「自力」の作家と言うより元から「他力」の慈愛を持ったカメラブッダの様に思えてならない。それは、観念で対峙するものではない事を知っているからだ。そしてまた、観念で見るものではない事も。正に鏡に反復する自己から窓の外へ向けられた崇高な境地を伺い知れるが如しである。そしてそれは、彼自身の事のみならず、我々自身の問題でもある。/空蓮房

(展示協力:Fraenkel Gallery, SF, USA)