– Peninsula –
2013年10月9日~12月6日
半島
私の生まれた和歌山県新宮市は紀伊半島の南部に位置する。標高1500~1900メートル程の尾根が連なる紀伊半島では古くから山岳信仰が盛んで、「神が隠る所」「死者の霊魂が隠る所」等を意味するという「クマ(=こもる)」から派生して「熊野」と呼ばれてきた。
半島の周囲にはわずかにひらけた平地が続く。私はこの平野部で山々の姿と太平洋の広がりを眺めながら育った。18歳で故郷を離れ、東京で生活するようになってから、自分の生まれ育った場所の特異さ、面白さにあらためて気付き、その風景を主題として制作してきた。めまぐるしく変わる人為的な時代変化とは別の時間軸の中で、熊野の風景は変わらずに存在し続けると思っていた。自然に向かってシャッターを切ることは、大きな時の流れに自身の知覚を差し出す行為であった。
しかし2011年9月に紀伊半島を襲った大水害は、かつて撮影した場所を消し去り、フィルムに定着された風景は過去につなぎとめてしまった。太古の記憶と結びついていると信じていた光景が、現在において破壊されたことは少なからずショックだった。撮ることの意味を風景から問われたと感じた。
私は再び熊野の森に向かった。それは「記録」のためではい。対象それ自体と向き合うこと、それが今回の展示である。
鈴木 理策