今井智己「十年」

ーA Decadeー(Photographs)

2021年3月3日(水)〜 4月23日(金)

「10年」

福島第一原子力発電所の事故のあと、近傍の山に登って写真を撮ることを始めてから10年が過ぎます。
撮影を続けているかぎり、事故のことを忘れることはないと思っていたけれど、10年前のあの動揺は10年分だけ淡く薄まり、記憶の棚の奥へ、深くへとすこしづつ退いていくことを知りつつあります。この先10年、20年と続けていくごとに、さらに遠く、深くへと離れていく。
遠く深くへ離れていきながら、それでも消えはしない。撮ってきた写真が記憶の留め金となって、遠くで光を返している。その留め金を見るとき、忘れていたことが忘れられたまま、自分のうちにありつづけていたと気づきます。

今井智己


不可視なものへの怖れと不安の根底には死があるのだろうが、自我を自然にゆだねるのならその先には希望が宿る。

空蓮房