多和田有希「歌う船」

2023年3月29日(水)〜 4月28日(金)

歌う船
THE SHIP WHO SANG

消滅することと現れること、壊すこととつくること、これらがともに有る状態を作品の中で成立させる。これが作品を完成させるときに私が意識していることです。

〈I am in You〉は海の写真の水の部分を燃やすことで、イメージの中で燃える水を出現させます。
〈Lacrymatory〉は涙壺上のかすかな釉薬に、数多の人がそれぞれに燃やした写真を想起する作品です。
〈blue on blue〉は陶芸家と写真家2人の顔がアーカイバルフォト上の同じ人物に入れ替えられ陶磁器上に転写を重ねられ歪められイメージを損なっていくことで、涙のような青い流痕が残ります。
〈歌う船〉は写真上の星と星を数えきれない折れ目で繋ぎ、展示空間において折れ跡に力を加えることで仮設的で有機的な形態を保つ立体作品です。〈歌う船〉というタイトルは、アン・マキャフリーのSF小説から引用しました。人間として生まれながらも宇宙船の身体を持ちサイボーグとして生きる女性の話です。思考するだけで宇宙を飛び回り、どんな音域の曲でも歌うことができる彼女は、再び人間の肉体が与えられるチャンスを拒否します。
私たちは多くの時間をネットに繋がって過ごし、すでに身体が意識の中から無くなり始めるトランジションの時代に生きています。失うことを恩寵にするにはどうすれば良いか、私は制作において予行演習をしているに過ぎないのかもしれません。

多和田有希


無常だから儚いのではなく、無常だから楽しいのだ。刹那な悦びは人が仏になることができるという証であり根拠であろう。

空蓮房


多和田有希

1978 静岡県生まれ
2003 東北大学農学部応用生物化学科生命工学専攻卒業
2005 ロンドン芸術大学キャンバーウェル・カレッジ・オブ・アーツ写真学科卒業
2008 東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修士課程修了
2011 東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻博士後期課程修了
2019 京都造形芸術大学(現:京都芸術大学)美術工芸学科写真·映像コース専任講師(現在、准教授)

自ら撮影した写真を消す(削る、燃やすなど)という行為を通し、都市や群衆の集合的無意識や個の意識変容をイメージとして湧出させる。近年の主な展覧会に「見るは触れる 日本の新進作家 vol.19」(2022年・東京都写真美術館)、「第12回恵比寿映像祭 時間を想像する」(2020年・東京都写真美術館)、「写真都市展—ウィリアム・クラインと22世紀を生きる写真家たちー」(2018年・21_21 DESIGN SIGHT)など。主な作品収蔵先として東京都写真美術館、スミソニアン博物館フーリアギャラリーなど。(WEB https://www.yukitawada.com/)